【イマドキの仕事人】整顎師 顎リフレッシュして人生リスタート(スポニチアネックス)

スマートフォンの普及や過度なストレスによって顎の不調を訴える人が増加傾向にある。悩み解消の受け皿として活躍の場を広げているのが「整顎(せいがく)師」を名乗る専門家たち。医師とは違い、整体療術で症状改善につなげている。「整顎師」第1号の男性は「食いしばらなくても楽に生きる社会を実現したい」という思いを抱き、人々の顎と向き合っていた。

 小田急線の成城学園前駅(東京都世田谷区)を降りて1分ほど歩き、「整顎師」藤原邦康(47)が営む施術院を訪ねると、施術の真っ最中だった。

 藤原はカイロプラクティック(米国式の整体療術)を生業として12年。骨格のゆがみを矯正したり、神経の働きを回復させるカイロを応用して、顎の悩みを解消する職人だ。

 ベッドに仰向けで寝そべっていた40代の男性会社員に対し脚を組むよう指示し、浮いた片脚をグッと下に押し込んだ。脳と筋肉の中間地点で情報を受け渡しするセンサーのような働きをする「固有受容器」に不具合がないか調べるためだ。

 施術を受ける側が気づかないほどの微細な反応も見逃さない。「不具合」が出た場合は、顎や目の周りなど顔周辺をポンポンと触って正常に働くようにする。問題なければ次へ。その繰り返し。骨をゴキゴキ鳴らすような派手さはなく、筋肉をもみほぐすようなマッサージ行為もない。

 わずか約10分で施術は終了。長年のデスクワークで顎の疲労感が抜けなかったという男性は、感激した面持ちでうなずいた。

 藤原は「整顎」を扉に例えて説明する。「例えば扉の立て付けが悪い時に、うまく閉まらないからドアを削ればいいとは必ずしもなりません。ドアとドアのフレームを調整するのが歯医者の役割であるなら、整顎は柱や建物の構造を調整していく行為なんです」。顎だけを応急処置しても根本的な解決にはならないという考え。不調の原因を取り除くためには全体の骨格を見なければならず、施術も6日分に分けて行うのが基本だ。

 元々、少年時代に「スター・ウォーズ」に憧れ、特撮監督になるのが夢だった。米国留学し、帰国後にCG制作会社へ就職。納期に間に合わせるため連日連夜のハードワークで、持病の腰痛が悪化。出合ったのがカイロプラクティックだった。

 「人間の骨格は100人いれば100通りある。日進月歩のデジタル技術とは違い、経験を蓄積していけば他の人にはまねできない技術になると思った」。30歳で再渡米し、難関とされる米国家資格「ドクター・オブ・カイロプラクティック」を取得した。06年に「オレア成城」を開業した当初は30~40代の女性客が中心だった。それが日増しに顎の悩みを相談しに来る人が増えてきた。歯医者へ通っても改善に結びつかない人々の駆け込み寺として需要が拡大した。

 藤原が「顎難民」と呼ぶ人々が増えた背景には、小顔矯正ブームの陰で不必要に強い刺激を加える業者の存在とスマホにある。特にスマホは、小さな画面をのぞき込む際、うつむきがちになってしまうため顎に強い負荷が生じてしまう。歩きスマホの場合は、ぶれ続ける視点を無理に定めようとするため、無意識に食いしばり癖を誘発しがちだという。

 「最近は中高生が明らかに増えてきた。下は小学生も親に連れられてやってくる」と明かす。中には、顔面の左右のバランスが崩れてゆがんでしまい、マスクしなければ外出できない状態から回復した女子高生もいた。

 日本人の2人に1人が顎の不調に悩んでいると言われる時代。藤原は「ストレス社会、不寛容な社会でどんどん食いしばって生きる人が増えている」と分析する。だからこそ「食いしばらなくても人が楽に生きていける一助になりたい」という信条を貫く。顎の悩みは現代を映し出す鏡なのかもしれない。 =敬称略=

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